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令嬢は元暗殺者に恋をする
第68章 出会った場所で
 ファルクの屋敷を去った後、その足でベゼレートの診療所へと向かった。

 濃紺色だった天(そら)は徐々に白々と染まる夜明けの明るさに押され、月はぼんやりと白く、その存在を薄れかけようとしている。

 まもなく、新たな一日の始まりを告げる鐘が鳴る。
 静寂に満ちた町にやがて、喧噪が訪れる。

 サラが目覚める前にはここへ戻り、何事もなかったように側についているはずだった。
 けれど、ファルクが言っていた通り、診療所にサラの姿はなく、しんと静まりかえった診察室にベゼレートと、消沈したように頭をうなだれたテオが椅子に座っていた。

 必ず戻ると約束したハルの言葉を信じて待ち続けていたのだろう、診療所に足を踏み入れるなり、椅子を後ろに倒さんばかりの勢いでテオは立ち上がった。

 サラの身に何があったのか、ファルクとの一件をまったく知らないテオは、ハルが今までどこにいたのかも当然、知らない。

 どこへ行っていたのかと咎めることも、何があったのかと問いつめることもなく、テオは申し訳なさそうにことの次第を語り、ただひたすら謝罪するばかりであった。

 サラを引き止めることができなくてすまないと。

 サラを連れ戻しにトランティア家から人がやってきたのは、自分がここを去った直後だった。

 怪我の状態をきちんと診たい、今は安静にさせたい、連れ戻すにしてもせめて夜が明けてからにして欲しいと、もっともらしい理由を並び立ててサラを引き止めようとはしたものの、テオとベゼレートの説得にも応じず、やってきた屋敷の者は有無を言わせぬ態度で、なかば強引にサラを連れ帰ってしまった。

 屋敷にも専任の医師はいる、と言い切られてしまっては、それ以上無理に引き止めることはできなかった。
 目覚めてハルがいないことに気づいたサラは、しばし、求める姿を見つけ出そうと落ち着かない様子で辺りに視線をさまよわせていた。

 こんな夜中にサラがたったひとりで屋敷を抜け出し、ここへ来られるはずがない。
 誰によって連れてこられたのかと厳しく問いつめられても、最後までハルの名を口にすることはなく、おとなしく屋敷へと戻った。

 ここで抵抗すれば、テオたちに迷惑をかけてしまうと配慮したのだろう。

「力が及ばず申し訳ありませんでした」

 テオの隣で頭をさげるベゼレートに、ハルはいたたまれなさを覚えた。
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