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令嬢は元暗殺者に恋をする
第70章 戦い前夜
静かな──。
物音ひとつない、静かな夜であった。
ベッドしか置かれていない殺風景な部屋。
窓の下に剣を抱えじかに床に座り込んでいたハルは、何を見るとはなしに虚ろな目を闇に据えていた。
カーナの森から自宅へと帰った後、微動だにせず、食事もとらず、こうして座り込んだままの状態であった。
もれる呼吸さえ夜の闇に溶け、己自身すら闇に同化していく感覚。
暗殺をしていた時は、仕事の前はいつもこうであったことを思い出す。
すべての感情を捨て、ただ殺しの道具となるために。そして、静かにその時がくるのを待ち続ける。
しかし、その静寂を突如つき破るように、壊さんばかりの勢いで扉が大きく開かれた。
開いた扉は外壁に派手な音をたててあたり、跳ね返る。
そこに立っていたのは──。
騒々しい。
今、何時だと思っているのか。
すでに町も人も眠っている時間。
そんな大きな音をたてたら、近隣の者が驚いて目を覚ましてしまうではないか。
月明かりをまとったその人影は、すらりとした長身に細身の体躯。
首の後ろで緩く結わえた長い髪が背で揺れる。
しばし、固まったように扉の入り口に立ち尽くしていたその人物は、闇に目を慣らすように部屋の中を見据え、そして、ようやく窓の下に座り込んでいる自分の姿をとらえ。
「おまえ!」
と、声を張り上げ、ずかずかと部屋の中へ踏み込んできた。
物音ひとつない、静かな夜であった。
ベッドしか置かれていない殺風景な部屋。
窓の下に剣を抱えじかに床に座り込んでいたハルは、何を見るとはなしに虚ろな目を闇に据えていた。
カーナの森から自宅へと帰った後、微動だにせず、食事もとらず、こうして座り込んだままの状態であった。
もれる呼吸さえ夜の闇に溶け、己自身すら闇に同化していく感覚。
暗殺をしていた時は、仕事の前はいつもこうであったことを思い出す。
すべての感情を捨て、ただ殺しの道具となるために。そして、静かにその時がくるのを待ち続ける。
しかし、その静寂を突如つき破るように、壊さんばかりの勢いで扉が大きく開かれた。
開いた扉は外壁に派手な音をたててあたり、跳ね返る。
そこに立っていたのは──。
騒々しい。
今、何時だと思っているのか。
すでに町も人も眠っている時間。
そんな大きな音をたてたら、近隣の者が驚いて目を覚ましてしまうではないか。
月明かりをまとったその人影は、すらりとした長身に細身の体躯。
首の後ろで緩く結わえた長い髪が背で揺れる。
しばし、固まったように扉の入り口に立ち尽くしていたその人物は、闇に目を慣らすように部屋の中を見据え、そして、ようやく窓の下に座り込んでいる自分の姿をとらえ。
「おまえ!」
と、声を張り上げ、ずかずかと部屋の中へ踏み込んできた。

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