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令嬢は元暗殺者に恋をする
第71章 月影の森
深更、満ちる時。
今宵は月も冴え冴えと。
天上を彩る数多の星々が、静寂の夜にささやきを繰り返す。
物音一つ聞こえない夜の森は、ただ不気味なまでに深閑とした気配が辺りを包み込むだけ。
森に潜む夜行性の獣たちですら、この場に現れた突然の来訪者に恐れをなし怯えているのか、息を殺し自らの気配を絶っているようであった。
地上に覆い被さる枝葉からのぞく月が夜空にかかり、皓々と蒼い光を落とす。
その光も今宵はことさら身を切り裂く氷の刃のよう。
この森に踏み込んでからおよそ一刻が経とうとしている。
その間、通り過ぎて行く者は誰ひとりとしていない。
シンと裏街の男たちが、うまくやってくれているのだろう。
ついと顔を上げ、ハルは天空を仰ぎ見る。
不思議と心は静かであった。
まぶたをわずかに伏せ、全ての感覚に神経を集中させる。
緩やかに流れる風の音。
その風によって揺れる木立の葉音。
そして、それらの音に混じり、遠くから微かに聞こえてくる物音を聞き、ハルはゆっくりと視線を上げた。
夜の静寂を震わせる馬蹄の音が遠くから。
徐々に近づいてくる馬車の行く手を阻むように、ハルは握りしめた剣を手に、月影の落ちる場所、道の真ん中に立った。
さあ──。
前方に目を凝らし、やがて姿を現し始めた馬車の影をハルは見据えた。
来い。
今宵は月も冴え冴えと。
天上を彩る数多の星々が、静寂の夜にささやきを繰り返す。
物音一つ聞こえない夜の森は、ただ不気味なまでに深閑とした気配が辺りを包み込むだけ。
森に潜む夜行性の獣たちですら、この場に現れた突然の来訪者に恐れをなし怯えているのか、息を殺し自らの気配を絶っているようであった。
地上に覆い被さる枝葉からのぞく月が夜空にかかり、皓々と蒼い光を落とす。
その光も今宵はことさら身を切り裂く氷の刃のよう。
この森に踏み込んでからおよそ一刻が経とうとしている。
その間、通り過ぎて行く者は誰ひとりとしていない。
シンと裏街の男たちが、うまくやってくれているのだろう。
ついと顔を上げ、ハルは天空を仰ぎ見る。
不思議と心は静かであった。
まぶたをわずかに伏せ、全ての感覚に神経を集中させる。
緩やかに流れる風の音。
その風によって揺れる木立の葉音。
そして、それらの音に混じり、遠くから微かに聞こえてくる物音を聞き、ハルはゆっくりと視線を上げた。
夜の静寂を震わせる馬蹄の音が遠くから。
徐々に近づいてくる馬車の行く手を阻むように、ハルは握りしめた剣を手に、月影の落ちる場所、道の真ん中に立った。
さあ──。
前方に目を凝らし、やがて姿を現し始めた馬車の影をハルは見据えた。
来い。

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