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令嬢は元暗殺者に恋をする
第71章 月影の森
 馬車の中、サラは窓枠に肘を乗せ、頬杖をついて、流れて行く窓の外の景色を眺めていた。

 馬車に乗りこんでからずっとこんな調子であった。

 足元には窮屈な靴を脱ぎ、ぶらぶらとつま先に引っかけて遊ばせている。
 たっぷりと裾の膨らんだドレスのため、行儀悪く靴を脱いでいるのは隣に座っているファルクに見咎められることはなかった。

 狭い馬車の中、同じ空気を吸っていると思うだけで気分が滅入りそうで、少しでもファルクから距離をとろうと、思いついては何度も座り直し、馬車の扉にぴたりとつくほど肩を寄せた。

 真っ白な婚礼衣装に身を包んだサラの表情に陰鬱な翳が過ぎる。
 思わず重たいため息が薄紅色の唇からもれた。
 結婚式は白々しい雰囲気の中、淡々といったふうに終わった。

 みな、口を揃えてファルク様のような素敵な方が夫とは何て羨ましいとは言うものの、花嫁であるサラが始終不機嫌そうにしていたのだからそんな彼女の様子を見て、この結婚が花嫁にとって望むところではないことは誰の目にも明らかであった。

 それ以上に、頬を腫らしているサラの顔を見た者たちは、いったい何があったのかと訝しみつつも、あえて、その話題に触れることを避け、見て見ぬ振りをよそおいながら、形式的な祝いの言葉をかけ、そそくさとサラの元から逃げるように去って行った。
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