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令嬢は元暗殺者に恋をする
第71章 月影の森
「ふ、そうやって生意気な態度をとっていられるのも今のうちだ」

 ファルクの手がサラの頬へと伸ばされた。

「私の可愛いお人形、さん」

 お人形さんと言った瞬間、ファルクは意味ありげに口許を歪める。
 その人形という意味がファルクにとってどういう意味かを知らないサラは、触らないでと、頬に伸びたその手をすかさず払いのけた。

 ファルクはくつくつと喉の奥で含むような笑いをもらし、肩をすくめた。
 そのファルクも、馬車に乗ってから、ずっと何やら落ち着かない様子であった。

 そわそわしているのが伝わってくる。
 それがカーナの森に入ってからいっそう強くなった。

 いったい何なの?
 この胸のざわつきは何?
 何が起ころうとしているの?

 その時であった。

「危ない!」

 御者台の男が大声で叫ぶのを聞き、ファルクは前屈みになって身を乗り出した。

「何事だ?」

「人が……人が道の真ん中に立って……」

「人だと?」

 眉根を寄せたファルクはにやりと口の端を上げて嗤う。
 すぐにその人物が誰かを察したようだ。そして、同じく、サラもそれがハルだということに気づきはっとなって視線を前に向ける。

 ハル!
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