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令嬢は元暗殺者に恋をする
第71章 月影の森
 式が始まる前にはきっと迎えに来てくれると思っていただけに、正直、心にぽっかりと穴が開いてしまったよう。
 もしや、本当にハルの身に何かあったのかと、一抹の不安さえ胸を過ぎった。

 いいえ、ハルに限って絶対にそんなことはあり得ない。

 けれど、サラのそんな不安に追い打ちをかけるように、馬車に乗り込む直前、ファルクはこう告げた。

「何かを期待しているのならあきらめるのだね。あのきれいな顔の少年は助けには来ないよ。何故なら、この私が始末してやたのだから」

「な……!」

 サラはそんなことはないと反発しそうになって、ぐっとこらえ、出かかった言葉を喉の奥にとどめる。そして、ふいっとファルクから顔を背けた。

「当然の報いさ。この私の愛する妻に手を出したのだからね」

 ハルがファルクにやられるなど考えられない。
 だけど、もしファルクの卑劣な罠にはまり万が一ということも……ないとは言い切れない。
 それでも、サラはいいえ、と首を振って否定する。

 ハルよりもファルクの方がずっと年上とはいえ、これまでくぐり抜けてきた人生経験は明らかに違うとサラは思っている。

 つまり、ファルクなどよりもハルの方が一枚も二枚も上手だ。
 そんなハルがファルクの罠などに陥るはずがない。

 私の気持ちを動揺させようとして、わざとそんなことを言っているのだわ。
 だめよ、この男の言葉に惑わされてはだめ。
 信じなければ。
 ハルを信じなければ……。
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