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令嬢は元暗殺者に恋をする
第72章 怖いのは、あなたと離れてしまうこと
 ベゼレート医師の診療所から、無理矢理屋敷へと連れ戻され、ハルとも離ればなれになってしまって以来、ずっと沈みこんでいたサラの顔にようやく笑みが広がった。

 きっと来てくれると信じていながらも、もしかしたら、もう会えないかもしれないと、どこか心の隅で不安さえ抱いていた。

 けれど。

 ハルが来てくれた。
 迎えに来てくれた!

 でも、どうしてこのカーナの森を通って出かけることをハルは知っていたのか……それも、まるで待ち伏せをしていたかのように。と、サラは不思議に思って首を傾げたが、しかし、こうしてハルが来てくれたのだと思えばそんな疑問もすぐに消えてしまった。

 やっと、ハルに会える。

 嬉しさで身体が震えた。が、しかし、ファルクの次の言葉にサラは凍りつく。

「かまわない」

「……はい?」

 かまわない、とはいったいどういう意味なのか、と御者台の男は首を傾け聞き返す。

「ひき殺せ」

「ひ、ひき……っ! ファルク様、ご冗談を!」

 とんでもないことを言い出すファルクに、男は素っ頓狂な声を上げた。

「私は冗談など言わないよ。相手はとるにたらない虫けら同様の人間だ。ごみくずだ! ひき殺したところで、まったく問題はない」

 ファルクは問題ないと言うが、男にとっては大問題である。
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