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令嬢は元暗殺者に恋をする
第72章 怖いのは、あなたと離れてしまうこと
 サラの行動は素早かった。

 行儀悪く片足を持ち上げ、ぶらぶらとつま先に引っかけていた靴を手に取ると、それでファルクの顔面目がけて腕を振り上げ、振り下ろした。

 躊躇うことはなかった。

 靴のかかとが見事にファルクの眉間に命中する。

「うがっ!」

 悲鳴を上げ、ファルクは両手で顔を押さえ込む。
 その隙を狙い、サラは馬車の扉を大きく開け放った。
 鬱々とした車内の空気を払うかのように、新鮮な風がさっと流れ込んできた。
 扉の縁に両手をかけ身を乗り出すと、サラは勢いよく馬車から飛び降りた。
 風を孕んで白いドレスの裾がふわりと大きく膨らむ。

「待て!」

 飛び出して行こうとするサラを引き止めようと、伸ばしたファルクの手から、サラのドレスの裾がするりとすり抜けていく。
 ファルクが手につかんだのは、何もない虚空であった。

「くそっ! このがき!」

 口汚く罵るファルクの声を背中に流し、地面に裸足で降り立ったサラは勢いよく駈けだした。
 迷うことなくハルの元へとまっすぐに。

 離れた場所に、照らす月華を身にまとい立っているその姿はずっと待ち焦がれていた人。
 気持ちが急いて足がうまく前に踏み出せない。
 それは足元にまとわりつくドレスのせいだと気づき裾を膝までたくしあげる。
 髪を飾っていた花が風にさらわれ後方へと流れ散っていく。

 もちろん、覚えている。
 ここは、ハルと私が初めて出会った場所。
 あの時と同じ。
 そう、あの時もこうしてドレスの裾を持ち上げ、ハルの元へ駆けつけるために走った。

 月明かりだけの暗い道。
 けれど、夜の闇など怖くない。
 怖いのは、ハルと離ればなれになってしまうこと。
 ハルに会えなくなってしまうこと。

 会いたかった。
 ハルに触れたかった。
 強く抱きしめたい。
 抱きしめて欲しい。

 たった数日会えなかっただけなのに、胸が苦しくて痛くて、どうしようもないくらい、せつなくて泣きそうになった。
 こんな寂しい思いはもうしたくない。
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