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令嬢は元暗殺者に恋をする
第73章 もう二度と離れない
「ハル、会いたかった!」

 そう、あの時と違うのは。
 自分もこうしてサラに触れ、抱きしめたかったということ。

「サラ、どうして裸足なの? 靴は? 怪我をしてしまうよ」

「履いている余裕なんてなかったの。私ね、靴であの男の顔を叩いて逃げ出してきた」

 馬車の中でファルクともみ合ったのか、サラの髪もドレスも乱れていた。

「靴で……ずいぶんと、無茶をするね」

 ハルはくすりと笑う。
 しかし、サラの行動に逆上したファルクが彼女に何か仕掛けたかもしれないと思えば、実際は笑い事ではなかった。

 だが、サラの顔を見る限り、何かされたという心配はなさそうだ。
 もっとも、ファルクの利き手の指を何本か折ってやったのだ、そうそうサラにひどいことはできないはず。

「何もされなかった?」

 サラはこくりとうなずく。

「早くハルに会いたくて。たった数日会えなかっただけなのに胸がどうにかなってしまいそうなくらい苦しくて。じっとしていられなかった」

 俺も、同じだよ。

「ハルのこと心配した。もしものことがあったのではないかと思って。ハルに限ってそんなことはないと信じていたけれど、でも不安で……大丈夫だった?」

「ああ」

「よかった。ほんとうによかった」

 今まで何をしていたの?
 どうして私を、ひとりにしたの?
 どうしてすぐに会いに来てくれなかったの?
 どうして?

 そう、責めるわけでもなく、純粋に自分の身を案じてくれ、再会を喜ぶサラに胸の奥が痛んだ。
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