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令嬢は元暗殺者に恋をする
第73章 もう二度と離れない
「ごめんね。寂しい思いをさせてしまったね」

「ううん。こうしてハルに出会えたのだもの、無事でいてくれたのなら、もうそれだけで……それだけでいいの」

 もう二度と離れないとばかりに、サラはぎゅうっと、きつく背中に腕を回してしがみついてくる。
 抱きついてきたサラのふわふわの髪を、何度も優しくなでた。指の間を柔らかな髪がすべり毛先へと抜けていく。

 甘えてくるサラが可愛いと思った。
 愛おしい。
 手放したくない。
 自分のものにすると決めたのに。

「そんなにしがみついたら、痛いよ」

「うん」

 うなずきながらも、背中に回されたサラの腕はいっこうに緩むことはなく、それどころか、ますます締めつけ離れようとはしない。
 腕の中でサラが肩を小刻みに震わせる。

「どうしたのサラ? 泣いているの?」

「泣いてない」

「顔を見せて」

 びたりと胸に顔をうずめたサラのあごに指先をかけ上向かせようとするが、サラはいや、と小さく首を振る。
 力のない抵抗だった。

 サラ、ともう一度ささやいて呼びかけ、あごを持ち上げ首を傾げのぞきこむ。
 抱きついたまま、今度は素直にそろりと顔を上げたサラの潤んだ瞳が真っ直ぐにこちらを見上げる。

 泣いてはいない。

 けれど、目の縁にたまった大粒の涙は今にもこぼれおちそうで、そんな顔で、瞳で見つめられたら決心が鈍ってしまいそうだった。
 サラとは今夜限り、という決心が。
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