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令嬢は元暗殺者に恋をする
第73章 もう二度と離れない
「それにしても、おまえはいつからこの私に意見するようになったのかね? 小娘が、生意気にもほどがある。まあいい、後でたっぷりと痛いお仕置きをしてやる。この間はし損ねたからね。あの時は私も油断をしたのだよ。まさか、おまえがあんな真似をするとは予想もしなかったから。だが、今回はそうはいかないよ。別荘に着いたらすぐにおまえの手足を縛りあげて折檻だ」

「後でなどないもの! もう、屋敷には戻らない。私はハルと一緒に行く」

 すかさず言い放つサラを、ファルクは鼻であしらう。

「おやおや、男が現れてずいぶんと気が大きくなっているようだね。おまえがいったい誰のもので、どういう立場なのか、じっくりとわからせてやろう。その身体に嫌というほど教え込んでやる」

 最後に、ファルクの目がハルへとそそがれた。

「正直、驚いたよ」

 よもや、本当にハルがこの場に現れるとは思わなかったらしいファルクは、やれやれとため息をつく。

「まさか、本当にやって来るとはね。わざわざ殺されに来るとは、どうしようもない愚かな男だ。正真正銘の馬鹿だ」

 侮蔑を込めて吐き捨てるファルクを、ハルの視線が真っ直ぐに射る。
 月明かりの下に映し出された藍色の瞳は、皓々と輝く月光さえも弾くほどに鋭利な光を放っていた。

「それとも、私が言ったことは冗談だと、脅しだと思っていたのかな?」

「いや、冗談とも脅しとも思っていないさ。約束しただろう?」

「約束だと?」

「忘れたのか? 今夜」

 いつの間にか手にしていた瓶を、ハルはファルクの前に見せつけた。

「これを貴様に返すと」

 ファルクはにたりと唇を歪め嗤った。

「そうだったな。では……」

 返して貰おうと、とファルクはさっと右手を高々とあげた。
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