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令嬢は元暗殺者に恋をする
第73章 もう二度と離れない
「くそ! こっちが下手に出ていればいい気になって、あのがき! 少しばかり痛い目にあわせておけばよかったか」
 
 口汚く罵り声を上げ馬車からおり立ち姿を現したファルクは、顔面を手で押さえ御者台に座る男に指を突きつける。

「おまえ!」

「ひ……っ!」

「何故、私の命令に従わなかった!」

「そんな、無理です……ひき殺すなどできるわけが……」

「うるさい! 黙れ黙れ! 私の命令に従えないのなら、おまえは即刻くびだ!」

 くびと言い渡された御者台の男は肩を落とし、力なくうなだれる。

「それでも、人殺しになるよりは、よっぽどいい……」

「いいえ! 彼は、ロアルさんはトランティア家の大切な御者よ。くびだなんてあなたが勝手に決めていいことではないわ。そもそも、そんな権利などあなたにはない!」

「サラ様……」

 ロアルと呼ばれた男の目にじわりと涙がにじむ。
 使用人である自分をかばってくれたどころか、名前まで覚えてもらえていたことがよほど嬉しかったらしい。

「ロアル? 誰だねそいつは? ああ……この使えない男(くず)のことかね?」

 言って、ファルクは御者台の男を一瞥すると、ねっとりとした視線をサラに向けた。
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