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令嬢は元暗殺者に恋をする
第75章 戦い -1-
 吹く風にハルの髪が揺れ、黒一色の衣服の裾がなびく。

 誰が見ても、ハルに勝ち目がある戦いとは言いがたい状況であることはあきらか。
 しかし、ハルの瞳に何の感情も見つけることはできなかった。

 恐れも。
 怒りも。
 憎悪も。
 回避することのできないこの状況に嘆くことも。

 その身に殺気すらも感じられず、藍の瞳はあくまで静かで、それがかえって得たいのしれない怖ろしさを増した。

 夜は長く闇は濃い。
 待ち望む夜明けは遠い。

 さわさわと音をたてる枝葉が夜の静寂を震わせる。
 落ちた枯れ葉が乾いた音をたて地面の上を流れていく。
 おおいかぶさる枝葉の天涯、そのさらなる涯て、天(そら)の水面に月が嗤う。
 蒼白く冷めた光を放ち、まるで傍観者の如く地上を見下ろして。

 いまだ暗殺者たちは動かない。
 おそらく、こちらの出方をうかがっているのだろう。

 離れた場所では、場の空気を読めないファルクがハルを罵り、さらに、声を荒げて早く殺せ、やってしまえと、暗殺者たちをけしかけている。
 ファルク以外、誰も一言も言葉を発しない静寂と緊迫に包まれた空気の中で、彼だけが異質の存在に思えた。

 そのファルクに雇われた暗殺者たちですら、雇い主をかえりみようとはしない。

 ハルは剣に手を伸ばし柄を握ると、ゆっくりとした動作で抜き放つ。
 この後の戦いを微塵にも感じさせない、ため息がでるほどに優美な仕草であった。

 二十人の暗殺者たちに囲まれていても、やはり、動揺の欠片すらない。

 鞘から解放された細身の刀は一点の曇りもない艶やな銀色。
 刃が月華をはじいて、刀身の根元から切っ先に向かって嘗めるように青白い煌めきを放つ。

 背後でサラが小さく息を飲んだのが聞こえた。
 ちらりと後方を見やる。
 言われた通り、サラが木の茂みに身をひそませたのを確認する。

 一方、誰にも相手にされないとようやく察したファルクも、己の身の安全を確保するため、馬車の陰に隠れ、顔だけをのぞかせ状況をうかがっている。
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