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令嬢は元暗殺者に恋をする
第75章 戦い -1-
サラはこくりと喉を鳴らし、表情を引きつらせた。
夜露に混じり視界が赤く染まるほどの血。
息を吸うたび喉の奥に流れ込むのは、夜気に混じる濃密な血の臭気。
人が殺されるのを目にするのは当然、初めてであった。
こんな状況を前にして、怯えないわけがない。
サラはぽろぽろと涙をこぼした。
地面についた手の甲にいくつもの涙が落ちる。
泣き声さえ胸につかえ、ただ嗚咽がもれるだけ。
苦しい。
助けて。
息をすることすらままならない。
この場から逃げ出してしまいたい。
怖い。
ハルが怖い。
あんなハルの姿、初めて見る。
爪が食い込むほどに手をきつく握りしめる。
しらずしらず地面の土を掻いていたせいで、爪の先が割れ血がにじんでいた。
「痛い……」
けれど、それ以上に痛いのは心であった。
泣いてはいけない。
私が泣いてしまったらハルを困らせてしまう。
わかっている。
なのに、涙がとまらない。
ハルが戦っているのに。
最後まで見届けると心に決めたのに。
暗殺者として生きることを厭い、自由になりたいと願って組織を抜け出したのに。
もう、誰も殺したくないはずなのに。
それなのに、ハルは戦っている。
でも……。
もう、耐えられない。
こめかみのあたりに両手を持っていき、挟み込むように頭を押さえる。
ふと、右手にハルが結んでくれた藍色のリボンの端が揺れて頬をくすぐった。
そして、ハルの手首に結ばれたもう片方のリボンを見つめるサラの瞳が揺らぐ。
二つのリボン。
それは二人を繋げる絆。
私を守ってくれると。
そして、必ず無事な姿で生きて戻ってくると、ハルが私に約束してくれた証。
たとえ何があってもハルを信じてついていくと心に決めた。
ハルの過去も何もかもすべて受け入れると覚悟のうえで。
ごめんなさい。
流れる涙を手の甲で拭い、唇をきつく噛みしめる。そして、決して目の前の出来事から、ハルから、目をそらすまいとサラは正面を見据えた。
怖いけれど、もう逃げたりしない。
絶対に。
ハルの戦いのすべてを見届けることが唯一私にできること。
それが、私の覚悟。
夜露に混じり視界が赤く染まるほどの血。
息を吸うたび喉の奥に流れ込むのは、夜気に混じる濃密な血の臭気。
人が殺されるのを目にするのは当然、初めてであった。
こんな状況を前にして、怯えないわけがない。
サラはぽろぽろと涙をこぼした。
地面についた手の甲にいくつもの涙が落ちる。
泣き声さえ胸につかえ、ただ嗚咽がもれるだけ。
苦しい。
助けて。
息をすることすらままならない。
この場から逃げ出してしまいたい。
怖い。
ハルが怖い。
あんなハルの姿、初めて見る。
爪が食い込むほどに手をきつく握りしめる。
しらずしらず地面の土を掻いていたせいで、爪の先が割れ血がにじんでいた。
「痛い……」
けれど、それ以上に痛いのは心であった。
泣いてはいけない。
私が泣いてしまったらハルを困らせてしまう。
わかっている。
なのに、涙がとまらない。
ハルが戦っているのに。
最後まで見届けると心に決めたのに。
暗殺者として生きることを厭い、自由になりたいと願って組織を抜け出したのに。
もう、誰も殺したくないはずなのに。
それなのに、ハルは戦っている。
でも……。
もう、耐えられない。
こめかみのあたりに両手を持っていき、挟み込むように頭を押さえる。
ふと、右手にハルが結んでくれた藍色のリボンの端が揺れて頬をくすぐった。
そして、ハルの手首に結ばれたもう片方のリボンを見つめるサラの瞳が揺らぐ。
二つのリボン。
それは二人を繋げる絆。
私を守ってくれると。
そして、必ず無事な姿で生きて戻ってくると、ハルが私に約束してくれた証。
たとえ何があってもハルを信じてついていくと心に決めた。
ハルの過去も何もかもすべて受け入れると覚悟のうえで。
ごめんなさい。
流れる涙を手の甲で拭い、唇をきつく噛みしめる。そして、決して目の前の出来事から、ハルから、目をそらすまいとサラは正面を見据えた。
怖いけれど、もう逃げたりしない。
絶対に。
ハルの戦いのすべてを見届けることが唯一私にできること。
それが、私の覚悟。

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