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令嬢は元暗殺者に恋をする
第76章 戦い -2-
 息をつく間もなく、もうひとりの敵。

 隙をつき、こちらの動きを読んで攻撃を仕掛けてくるものの、それらすべてをことごとくいなされ、封じられ、思うようにならないと、敵の顔に焦りがつのる。

 そして、その焦りが敵の振るう剣にも如実にあらわれている。
 意のままにならないもどかしさと悔しさに、歪められた敵の顔に憎悪が滲む。
 風の如き速さでハルは剣を操る。それはまさに、夜の闇を舞う黒い風。
 鋭い攻撃で敵を追いつめ、振るう俊速の剣筋には一寸の乱れも揺らぎもない。

 繰り出すハルの一方的な攻撃をかろうじて交わし、受け止めることが精一杯で攻撃を仕掛ける余裕などないという様子だ。
 ハルは敵の脇へと素早く回り込み剣を斜めに振り上げた。

 苦渋の声をもらし、倒れる敵をハルは感慨のない目で見下ろす。
 ファルクを含め、アイザカーンの暗殺者たちにとって大きな誤算であった。

 素早さ力技、技量、すべてにおいて、ハルのそれは暗殺者たちをはるかに凌駕していた。
 自分たちは勝つと信じて疑わなかった自信も何もかも、見事に砕かれてしまった。

 たったひとりの少年によってあっけなく。
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