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令嬢は元暗殺者に恋をする
第76章 戦い -2-
 サラは男から視線を外し静かに目を伏せた。
 男の言葉はアイザカーン語だ。
 当然、サラにはわからない。
 けれど、男が自分に何を伝えようとしているのかは、何となくではあるが理解することができた。

「俺はこの件から手をひく」

「何だと!」

 と、叫んだのはファルクだ。

「レザンの暗殺者が相手だとわかっていながら戦えるか!」

「お、俺も……ひかせてもらう!」

 受けた依頼を放棄するなどあってはならないこと。
 だが、レザンの暗殺組織がかかわっているとなると話はまったく別だ。

 事実、二十人もいた暗殺者の半数以上が、たったわずかな時間で殺されてしまったのだ。
 二人の暗殺者が突然身をひるがえした。

「ま、待て……!」

「おまえらどこへ行く。私の依頼はどうした! すでに金は払っているのだぞ。契約違反だ!」

 残ったもうひとりの暗殺者とファルクが同時に叫ぶ。しかし、逃げ去った彼らはこちらを振り返ることはなかった。

 ハルは静かに笑い、馬車の側、倒した敵が所持していた弓と二本の矢を拾い手に取る。

 逃げられると思うか。

 レザンの暗殺者は狙った標的は絶対に逃さない。
 確実に仕留める。
 たとえ何があっても。
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