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令嬢は元暗殺者に恋をする
第79章 戦い -5-
「ハルと何を話していたのかわからないけど、よかったね。もう、大丈夫だからね」

「うう……」

 サラは少年の頭に手を置き、優しくなでた。

「泣かないで」

「お姉さん……」

 少年はとうとうこらえきれず、うわあと泣き声を上げサラの胸に飛び込んだ。

 胸に顔をうずめて泣きじゃくる少年の背に手を回し、サラはぎゅっと抱きしめる。

「こわかったよ……死にたくなんかないよ」

「もう大丈夫よ。大丈夫だから」

「本当に殺されると思ったんだ」

「うん」

「死ぬのは覚悟してるなんてかっこつけて言ったけど、やっぱりこわくて。今だってまだ震えがとまらなくて。ハル、まじで怖いよ」

「もう、泣かないの。ね? 男の子でしょう?」

「お姉さんがいなかったら、俺、絶対に殺されていた」

 ぐすぐすと鼻をすする少年の頭を、もう一度宥めるようにサラはなでる。

「ほら、顔を上げて。涙、拭いてあげるね」

「お姉さん……」

 甘えた声でサラに抱きつく姿は、やはりまだまだ子どもだ。

 それにしても、何ともおかしな光景だと、思わず苦笑してしまう。
 互いに話す言葉は違うのに、理解すらもしていないのに、それでも不思議なことに気持ちが通じ合えているようにも見えた。

 ファルクの命令で、形だけとはいえサラを襲うはずであった暗殺者が、反対にサラに頭をなでられ慰められているのだ。
 もはや、この少年がサラに危害を加えることはないだろう。

 ハルは二人に背を向けると、馬車の側で呆然と座り込んでいるファルクをかえりみる。

「ハル?」

 どうしたの? 何をするつもりなの? と、訝しむサラに。

「もう少しだけ、待っていて」

 と言って、ハルはファルクの元へと歩み寄る。

 これで、お終いだな。
 ファルク。
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