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令嬢は元暗殺者に恋をする
第80章 戦い -6-
「こんなことがあって……」

 ゆっくりとした足どりで歩み寄ってくるハルに、ファルクは動揺する。
 おそらく、この窮地をどう切り抜けるべきかと、頭の中で必死に考えを巡らせているのであろう。そして、ファルクのとった行動は。

「お、おい、早く馬車を出せ! 早く! 聞いているのか!」

 徐々に近づいてくるハルから逃れるため、ファルクは御者台に向かって声を荒げて叫ぶ。が、肝心の御者台の男は、ハルと暗殺者との戦いが始まった直後に失神してしまっていた。

 何度呼びかけても目覚める気配はない。
 もはや、ファルクを守ろうとする者はいない。
 高い金を出して雇ったアイザカーンの暗殺者もあっけなく殺されてしまった。

 いや、ただひとり生き残った者はいる。
 だが、子どもだ。
 たかが子どもひとりに何ができようか。

 あてにはならないと判断したファルクはくそ、と口汚く吐き捨てる。

「何がアイザカーンの暗殺組織だ。暗殺者とは名ばかりのくずばかりではないか! もっと、まともな奴をよこすことができなかったのか……くそ、くそ、くそっ! どいつもこいつも役立たずめ!」
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