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令嬢は元暗殺者に恋をする
第80章 戦い -6-
決して、アイザカーンの暗殺者たちが役立たずだったのではない。
ハルが強すぎたのだ。
そのハルの強さをファルクも目の当たりにしていたはず。
自分では、とうていかなう相手ではないということも。
それなのに、何を血迷ったのか、ファルクはゆらりと立ち上がり左手で腰の剣を抜いた。
どうせ殺されるのなら、剣で戦い死のうという、騎士としての誇りがファルクをそうさせたのか。
ハルが剣に手をかける様子はない。
じりっと足元の土を踏みしめ、ファルクは身がまえる。
間合いはじゅうぶん。
が、次の瞬間、ファルクの手から剣が落ちた。
「頼む! この通りだ。助けてくれ」
ファルクは両膝を折り、地にひたいをこすりつけて土下座をする。
騎士としての誇りよりも己の命を繋ぐ。
それが、ファルクのとった選択であった。
だがしかし、ファルクは思い違いをしている。
己の矜持を投げ捨て命乞いをしたとしても、相手がそれを受け入れるかどうかだ。
それでも、助かるためにファルクは必死だった。
「あの娘のことはすっぱりあきらめた。この結婚はなかったことにする。おまえにあの娘を返そう。もちろん、おまえたちのことも、誰にも喋ったりはしない。おまえは好きな女を取り戻した。それでいいだろう? それで何も問題はないだろう? だから、私を殺さないでくれ」
落ちる沈黙にファルクは小刻みに肩を震わせる。
ちらり、とファルクは目の前に立つハルの足元を見やり、さらに、その目が地面についた手の脇に落ちている己の剣に走る。
ファルクの頭上でハルがため息をつくと同時に、ファルクの唇に薄い嗤いが刻まれた。
「なーんてな!」
突如、起き上がったファルクは側にあった剣を握り、鋭い切っ先をハルの心臓めがけて突きだした。
「ばかが! くそがきが、死ね!」
しかし、ファルクの一撃をハルは剣の鞘で受け止めはじく。
はじかれた剣は遠く離れた場所へと落ちた。
手首をおさえてファルクは醜く顔をゆがめる。
最後のあがきも、どうやら無駄であった。
ハルが強すぎたのだ。
そのハルの強さをファルクも目の当たりにしていたはず。
自分では、とうていかなう相手ではないということも。
それなのに、何を血迷ったのか、ファルクはゆらりと立ち上がり左手で腰の剣を抜いた。
どうせ殺されるのなら、剣で戦い死のうという、騎士としての誇りがファルクをそうさせたのか。
ハルが剣に手をかける様子はない。
じりっと足元の土を踏みしめ、ファルクは身がまえる。
間合いはじゅうぶん。
が、次の瞬間、ファルクの手から剣が落ちた。
「頼む! この通りだ。助けてくれ」
ファルクは両膝を折り、地にひたいをこすりつけて土下座をする。
騎士としての誇りよりも己の命を繋ぐ。
それが、ファルクのとった選択であった。
だがしかし、ファルクは思い違いをしている。
己の矜持を投げ捨て命乞いをしたとしても、相手がそれを受け入れるかどうかだ。
それでも、助かるためにファルクは必死だった。
「あの娘のことはすっぱりあきらめた。この結婚はなかったことにする。おまえにあの娘を返そう。もちろん、おまえたちのことも、誰にも喋ったりはしない。おまえは好きな女を取り戻した。それでいいだろう? それで何も問題はないだろう? だから、私を殺さないでくれ」
落ちる沈黙にファルクは小刻みに肩を震わせる。
ちらり、とファルクは目の前に立つハルの足元を見やり、さらに、その目が地面についた手の脇に落ちている己の剣に走る。
ファルクの頭上でハルがため息をつくと同時に、ファルクの唇に薄い嗤いが刻まれた。
「なーんてな!」
突如、起き上がったファルクは側にあった剣を握り、鋭い切っ先をハルの心臓めがけて突きだした。
「ばかが! くそがきが、死ね!」
しかし、ファルクの一撃をハルは剣の鞘で受け止めはじく。
はじかれた剣は遠く離れた場所へと落ちた。
手首をおさえてファルクは醜く顔をゆがめる。
最後のあがきも、どうやら無駄であった。

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