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令嬢は元暗殺者に恋をする
第80章 戦い -6-
「この瓶は誰に貰った?」

「……」

 答えないファルクに、ハルはもう一度、誰にもらったのかと問う。

「女王へいか……」

「中身は?」

「どく……」

「これを手に入れた目的は?」

「トランティア家のサラを……殺す、ため」

「何のために?」

「トランティア……を、手にいれる……」

「それは、貴様が考えたことか?」

 ファルクはかすかに否、と首を振る。

「女王……が、望んだ……トランティアを、のっとれ……と」

 ハルの口許に緩やかな笑みが浮かぶ。

「夜が明けたらアリシア王女の使者がこの森にやってくる。貴様はこの毒の入った瓶を、貴様の手、自らアリシア王女に渡せ」

「アリシア……おうじょに……」

 そうだ、とハルはうなずく。

「王女が今と同様の質問を繰り返す。貴様は同じように答えろ。難しいことではないだろう? できるな?」

 ファルクははい、とうなずいた。

「瓶は他の誰にも渡すな。絶対にだ。いいな」

「これは…アリシアさまに、わたす。他の者には、わたさない……ぜったいに」

 ファルクは再びうわごとのように繰り返す。
 ハルは試しにファルクが握りしめた瓶を引き抜こうとする。
 けれど、どこにそんな力があるのか、その手から瓶を抜き取ることはできなかった。

「わたさない……これは、アリシア……さま、に」

 ハルは満足げに笑って立ち上がる。
 その姿をファルクは焦点の結ばない目で見上げていた。
 ファルクの唇からかすかに〝くろいかぜ〟という言葉がもれたが、ハルの耳に届くことはなかった。

「一生、悪夢をみているがいい。地獄に堕ちろ」

 二度と這い上がることのできない。
 深い地獄の底に。
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