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令嬢は元暗殺者に恋をする
第81章 離さない、離れない
 地面に座り込むファルクに背を向けたハルはわずかに足をふらつかせた。
 ひたいに指先をあてる。

「……っ」

 目眩がする。
 全身の力が抜けてしまいそうで、気を緩めた瞬間、足元から崩れてしまいそうだった。
 眉間を引き締め、奥歯を強く噛みしめる。
 耐性はあるとはいえ、毒によってはまったく平気でいられるというわけではない。

「ハル、大丈夫……?」

 立ち上がり駆け寄ってこようとするサラを来るなと、手で制する。

 何でもない。
 たいしたことではない。

 そう答えたものの、果たして声になったかどうか、自分でもわからなかった。

「ハル……終わったの? 今度こそほんとうに? あの人は、ファルクはどうなってしまったの?」

 馬車の側で座り込んでいるファルクの様子がおかしいと気づいたサラは、いったい何か起きたのか確かめようと首を傾けのぞき込もうとする。

 しかし、ハルは見るなと緩く首を振ってとどめる。

 終わったよ、サラ。
 何もかも。
 そして、お別れだね。
 今度こそ、本当のお別れ。

 そう思った瞬間、胸の奥にずきりとした痛みが走った。
 その痛みを遠くへと押しやり、ハルは御者台に横たわる男にちらりと視線を向ける。
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