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令嬢は元暗殺者に恋をする
第83章 王女アリシア
「ハル」

「俺がアリシアのために動いてもいい。俺ならできる」

 ハルが動くと言ったのは、アリシアの母であり、このアルガリタの現女王であるイザーラを密かに暗殺しようという意味だ。

 厳重に置かれた警備たちの目をすり抜け、イザーラに近づき殺す。

 自分には容易いことだ。
 が……。

「ハル」

 厳しい声音と責めるような厳しい目で、アリシアは恐れることなくハルを見つめ返す。

 ゆっくりとした足どりでハルの元に近づいたアリシアは、ぺちりと相手の頬を叩いた。

 ハルは驚いたように目を開く。

「私がそれを望むと思うか? 二度とそんなことは口にするな。許さない」

 アリシアは張りつめていた緊張を解く。

「何もできない小娘が、何を偉そうな口を叩くのかとハルは笑うかもしれない。だが、私はハルにそんな真似はさせたくはない。そんなことをさせるために、ハルに力を貸して欲しいと言ったのではない。だから、どうか……わかって欲しい」

「ごめん。俺が悪かった」

 言ってみただけだと口にしかけたが、声にはならなかった。

 何故なら、本気であったから。
 もし、ここで彼女がうなずけば、迷うことなくこのままイザーラを殺しに行った。
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