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令嬢は元暗殺者に恋をする
第84章 暗殺組織レザン・パリュー
「炎天がね、自分の配下の人間の大多数を使ってアルガリタに向かわせるらしいよ。必ずハルを捕らえて連れ戻すんだってすっごく鼻息荒くしてる」

「そうですか」

 と、静かに声を落とすレイの口許には、他人にはそうとは気づかせない程度のかすかな笑み。

「ハル、大丈夫かなあ。つかまったりしないかなあ」

 クランツは手すりに両手をつき、片足をぶらぶらとさせながら暗い灰色の空を仰ぎ見る。

「心配はないですよ」

「ほんと? ほんとに?」

「ええ、あの子をそんな弱い子に育てた覚えはないですから」

 先ほど浮かべたレイの笑みの理由。
 それは、炎天ごときがハルをどうこうできるわけがないという、嘲笑を込めたものであった。
 たとえ組織の長である炎天自らが動いたとしても、ハルを捕らえることはできないであろう。
 他の誰にも、ハルの自由を奪うことも組織に縛りつけることもできはしない。


『ハルは貴様が自ら手をかけて最高の暗殺者として育ててきた男。だが、それは組織のためではない。ハルがいつか外の世界に抜け出すためにだ』


 あなたの仰るとおりですよ、炎天。
 私がどれだけあの子を大切に育ててきたか。

「だよね」

 クランツはにこりと満面の笑みをたたえる。
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