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令嬢は元暗殺者に恋をする
第85章 それから
「……んだ?」

 ふと、側にいた少年の呼び声によってサラは我に返る。

「え? 何?」

「何? じゃないよ。今日の夕飯はなんだって聞いたんだけど。どうしたんだよ。急に立ち止まってぼうっとしちゃって。大丈夫か?」

 サラの横で大きな買い物袋を両手に抱えた少年が心配そうな目で問いかけてくる。

 ファルクが雇った、あのアイザカーンの暗殺者の少年であった。

「あ、うん。何でもないの。夕飯ね。夕飯は野菜スープにパンよ。キリクはお野菜好き?」

「俺は、好き嫌いはないから平気だよ。それよりも、パンはサラの手作り?」

「そうよ」

「今度は失敗しないように焼いてくれよ。この間のパンは見事に堅かったから……いや、最初の真っ黒なかたまりよりはだいぶましになったと思うけど。あれはちょっと食べられたもんじゃなかったよな。ハルは何も言わずに食べてたけど。それと、野菜もちゃんと煮込んでくれよな。何日か前に食べたの、あれ、ほとんど生だったぞ。ハルは無言で食べてたけど……」

「前に野菜スープをハルに出したとき、まずい無理っ、て言われちゃったことがあるの」

「だったら、学習しようよ……ハルも気の毒だな。それと、いつだったかのクッキーらしきもの? そういうの挑戦したくなるのわかるけど、あれ、味がまったくなかったぞ。やっぱり、ハルは顔色一つ変えず食べてたけど」

「うん、今日はがんばるね」

「頼むからな」

「それとね、今日はりんごパイも作ってみようと思うの、ハルの好物だから」

「それはまた……」

 難易度高そうだな、とキリクと呼ばれた少年はぽつりと呟く。
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