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令嬢は元暗殺者に恋をする
第8章 突然の別れ
「おや? あなたが私の部屋を訪ねてくるとは珍しいですね」

 足音もなく部屋へと現れたハルの姿に、ベゼレートは別段驚く様子もなく、書物から視線を上げ振り返った。

「礼を言いに来た」

 その口振りと雰囲気から、彼はこの家を去るのだとベゼレートは察し、改めてハルに向き直った。

「いいえ、お礼を言わなければならないのはむしろ、こちらのほうですよ。テオを助けてくれたみたいですね。ありがとうございます」

 ハルはふっと、口許に笑いを刻んだ。

 ベゼレートはおもむろに立ち上がり、腰の後ろで両手を組み窓辺へと歩み寄る。

 窓の向こう暗い夜空を見上げ、おやっ、と声をもらした。

「雨が降ってきたようですよ」

 ベゼレートの言葉とともに、雨が一粒二粒窓に降りかかる。

「今日の私はずいぶんとお喋りのようですね。ハル、少々、私の話につき合っていただけますか?」

 まるで独り言を呟くように、窓の外に視線を向けたまま、ベゼレートはとつとつと語り始めた。
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