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令嬢は元暗殺者に恋をする
第8章 突然の別れ
「二十年前の初花の月、アルガリタ国前王が不治の病におかされ、病床の身となりました。王にはルカシスとダルバスという二人の息子がいた。迷うことなく兄ルカシスが次の国王の座につくことが決まり、それとともに、ルカシスには王族と所縁のある、アルジェリア家の姉妹のどちらかが選ばれることとなりました。
 選ばれたのはイルミネという妹の方。けれど、即位式前日、ルカシスは当時、王宮に務めていたジアンという名の侍女によって毒を盛られ、殺害された。さらに、この計画を企てたのはルカシスの妃となるイルミネだと」

 一般に知られているところの表向きの情報は、とベゼレートは含むような口調で言う。

 真実は別なところにあると……。

「アルガリタの法では毒物の製造、及び所持は厳しく禁じられている。見つかれば死罪。けれど、たかが十五、六の娘にどうしてそのような毒物を手に入れることができようか。そんな些細な疑問さえ微塵にも抱くこともせず、またその侍女を操っていた本当の黒幕が誰なのかを問い質すこともせず、罪のないその侍女を、その場で無惨にも斬り殺してしまった。
 だが、攪乱に乗じて侍女を即座に殺せと命じたのは、その場に居合わせていた黒幕本人だから仕方がなかった。誰も逆らうことはできなかった。そして、イルミネは投獄。さらに、侍女の家族も即座に捕らえられ、拘禁された。
 王族殺しは極刑。当然、彼らに待ち受けていたのは言うまでもない過酷極まる拷問。そして、その侍女ジアンにはまだ幼い弟がいた。私はその哀れな幼子をこっそりと連れだし、専属医師という大任を捨て、王家を後にしました」
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