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令嬢は元暗殺者に恋をする
第8章 突然の別れ
 これでいい。
 もう、二度と会うことはない。
 けれど、あの少女のことを考えると、思わず笑いがこぼれてしまうことを、抑えることができなかった。

 変わった少女だった。
 貴族のお嬢さんにしては、気取った素振りもなく、一生懸命で明るくて、前向きで。

 心根の優しい娘なのだろう。
 こんな自分を見下すこともせず、接してくれた。
 可愛かったとさえ思った。

 そして……。

 かわいそうなことをしてしまったとも思う。

 最初は脅しのつもりだった。
 必死で自分をひきとめようとする彼女に、徐々に自分の方が本気になってしまった。
 彼女を抱いてみたいと思った。

 けれど、自分と彼女とでは決して相容れない関係。

 たとえるなら、光と闇。
 だけど、あんたの最高にまずい料理は忘れはしないさ。

 シンが訝しむような顔でのぞき込み、にやりと口許を歪めた。

「まさかおまえ……ああいうお子さまにまで手をだしたのか? ほんと、みさかいない奴だな……」

 ハルは立ち止まり、自分よりも背の高いシンを見上げ睨みつける。

「黙れ」

「おっと、怒った顔も可愛いよ、ハル」

 途端、シンが首筋にしがみついてきた。いや、しがみつくというよりは、シンの場合、馬鹿力で首を絞めているという方が近い。

「みさかいないのはおまえの方だ。離れろ」

 ふと、周囲からざわめく声が聞こえてきた。
 見渡すと行き交う人たちが、怪訝な顔で自分たちを眺めていることに気づく。
 中には笑っている者も。

 それもそうであろう。
 真っ昼間から男同士が街中で抱き合って……いや、本人たちはまったくそのつもりはないのだが。

 おまけに、二人とも容貌が容貌なだけに、年若い女性たちが熱い視線できゃっ、と頬を赤らめ嬉しそうな悲鳴を上げている。

 そんな見物人の中のひとり、小さな子どもが指を差して声を上げた。

「お母さん見て見て、あのお兄ちゃんたち男同士でいちゃいちゃしてる!」

 子どもの母親はおよしなさい、とまるでいけないものでも見るように、子どもを抱え逃げ去っていってしまった。

「誤解される。いいから、離れろ!」
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