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令嬢は元暗殺者に恋をする
第8章 突然の別れ
「よくここがわかったな」

「まあね、あちこち駆けずり回って、おまえのこと探したんだぜ」

 俺の苦労を知れ、と大仰に両手を広げるシンに、ハルはちらりと視線を投げかける。

 探していたのは事実でも、駆けずり回ったのは行く先々の酒場だろう。
 この男の場合、夜は酒場で大酒をくらい、そのまま気に入った女とどこかに消え、起きるのはたいてい昼を回った頃。
 それから、日が落ちるまでの間をのらりくらりと過ごし、日没と同時に再び酒場へ直行と、そんな怠惰な生活を繰り返しているのだ。

 シンはまあ聞いてくれと、得意満面な顔で腰に手をあてる。

「まず、カーナの森での賊殺害事件。こんな派手なことをしでかすのは、絶対おまえ以外考えられないと思った。そこから、たどって街中を一つ一つ調べてだな」

 ハルは軽く肩をすくめた。

 この男がその気になれば、人脈を使い、人ひとり探しあてるなどわけないはずだ。

 彼の頼みとあれば、喜んで動く者は多い。
 それほどの力があるというのに。

 その時、遠くで自分の名を叫ぶ声を耳にしたハルは視線を巡らす。

 シンも何だ? と声のした診療所を振り返る。

「あの娘(こ)、おまえのこと探してるみたいだぜ。いいのか?」

 放っておけ、とハルは冷たく言い放つ。

「泣いているぞ。かわいそうに。なんなら俺が彼女を慰めてあげ……」

 歩き出そうとしたシンの腕をつかんでハルは引き止める。

「え? なに?」

「あいつにかまうな」

 シンはにやりと笑う。

「へえ、あの娘に俺を近づけたくないってわけか。なるほどね」

 ハルはふいっと視線をそらし、わずかに頬を歪めた。

「ふーん」

 きれいに整った眉を上げ、シンが何か事情を聞きたそうな顔をしているが、ハルはあえて無視を決め込んだ。
 すべてを振り切るように、サラに背を向け歩き出す。
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