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令嬢は元暗殺者に恋をする
第9章 サラの決意
 ようやく、多忙極まりない一日の仕事を終えたテオは、後片づけを早々に済ませ、いったん自室へと戻った。

 本来なら、夕食の支度に取りかからなければならないのだが、先に済ませたい用事があったからだ。
 もっとも、夕食の支度とはいっても大袈裟なものが作れるわけではないのだから、そう時間はかからない。

 机の上には師の書斎から持ち出した、多大な書物が今にも崩れ落ちないかとばかりに積み上げられていた。

 まだまだ自分は甘いのだと、テオはあの一件で思い知らされた。
 幼い頃から師に薬草の知識を教え込まれ、全ての知識を自分のものにしてきたと自負していた。

 だが、いざという時に自分は……。

 そして、テオは一つの決心をする。
 医師になろうと。
 師と対等な立場で仕事に接することのできる医師に。

 師の言葉にはいろいろ気づかされるものがあった。

 確かに、まだまだ医師を必要としている地域はたくさんある。
 それが書物の山のわけである。

 けれど、今のテオの関心は山積みになっている書物ではなく、机の上に置かれた一通の封書であった。

 それは、サラからの手紙であった。

 テオはしっかりと封をされた封書に、小刀を差し入れ丁寧に開いた。
 一枚の皮紙にびっしりと書かれた文字を目で追ううちに、テオの穏やかな顔が徐々に険しいものへと変わっていく。

 一通り手紙を読み終えたテオは視線を上げ、虚脱したように椅子に座り込む。

 しばらく考えに沈むテオであったが、何やら堅い決心を浮かべた顔で立ち上がった。
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