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令嬢は元暗殺者に恋をする
第9章 サラの決意
「もうよい」

 何か言いたげな呆れた眼差しでしばしサラを凝視すると、祖母はそれ以上言葉をかけることもなく、きびすを返し去っていってしまった。

 もはや、孫娘の顔を見るのも耐えられないとばかりに。

 だったら何故、わざわざ部屋にやって来たというのか。

 同じく彼女につき従う侍女たちも、祖母の後を慌てて追っていってしまった。

 再び部屋に静けさが戻る。

 サラは緊張を解き、深いため息をついた。

 息がつまりそう。

 こんな所に閉じこめられている生活をしていなければ、もっと自分が何ものにも束縛されない自由の身であったなら。

 サラの脳裏にハルの姿が思い浮かぶ。

 不遜で傲慢で、他人を見下すような冷徹な眼差しをする少年。
 ねじれているようにみえる性格だけど、でも心の内に優しさを秘めていて。
 人を惹きつける藍色の瞳は強気かと思えば、時々、寂しそうに揺れて。

 彼のすべてが、存在そのものが、サラにとっては魅力的であった。

 強さと弱さ、厳しさと優しさをあわせもつ不思議な存在。
 彼のことを考えると、とても幸福な気持ちになれた。
 もっと、彼の側にいることができたなら。
 もっと、彼のことを知ることができたなら。

 ハルに会いたい……忘れられない。

 ふと、思いついたように顔を上げ、机へと走り寄った。
 並べてある教科書やら何やらを乱暴に脇に押しのけ、引き出しから洋皮紙と封筒を引っぱり出す。

 椅子に座り、しばらく何かを考え込むように両腕を組む。そして、おもむろに、机の上に転がっていた鵞ペンに手を伸ばし、インク壺を引き寄せた。

 じっくりとペン先にインクを含ませ、洋皮紙に最初の文字を書き始めた。

「えーと、親愛なる……」
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