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向日葵
第5章 愛し、愛されて
 旅行中、二人だけの夏の思い出が欲しくて、太陽を浴びながらホテルのプールで泳いでみたり、昼間からお寿司を食べながらビールを飲んだ。

 とにかく大人の夏休みを贅沢に過ごしていた。


 「日焼け……大丈夫なの?」

 秋には真っ白なウェディングドレスを着る花嫁は、夏の日差しをお構いなしというくらい肌に焼きつけていた。


 「すみれと過ごす夏を全部吸収しとくの」

 はしゃいで見せる葉月の笑顔が切ない。

 水族館でイルカのショーを見て楽しみ、その後、お土産売り場を見たりしていた。
そこにスワロスキーで作ったイルカのキーホルダーがあった。

 葉月はそれをずっと眺めていた。

 「欲しいの?」

 そう尋ねたら、エヘヘと笑う仕草を見せる葉月。

 お嬢様育ちの葉月は、普段は贅沢なブランドものに囲まれているのに、時折庶民的な物も欲しがる。

 私が着ている大手アパレル会社で大量生産された安いセーターやジーンズなどもお揃いの物を欲しがったり、口紅や香水なども同じ物を好んだ。
私自身はブランドなどに拘らず、コスパの良い物を選んでしまうところがある。

 そんな私に葉月は合わせるのだ。

 でも、私には分かっている。
葉月が欲しいのはキーホルダーではなく、この夏の思い出なんだって事。

 私が渡した部屋の鍵につけたいと、遠回しなおねだりしているだけ。

 私の懐を心配してくれてるの?

 結婚式には行かないと葉月には告げた。
その代わり、今回の旅行の費用を御祝いのつもりで全部私が出す事を約束させた。

 それが条件で、旅行の計画を全部私が立てて、喜ぶ顔見たさに、夏のボーナスは惜しみなく注ぎ込み、思い出を作ろうと思った。

 葉月が心残りなく嫁がせる為に……

 餞代わりなんだよ。

 社会に出て、三年目のしがないOLの私を心配してくれる、健気なお嬢様。
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