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聖杏学園シリーズ ー囚われの少女達ー
第8章 痴漢編 2-1
「そんなことないよ。ただ、人ごみが嫌いなだけだ
から。気持ち悪くなっちゃうの。変なこと言わない
でよ~」
努めて明るく返事を返しても、奈菜の眼の色は変わ
らなかったが、より一層可愛い笑顔で瑠璃を誘って
きた。

「なんだ、びっくりしちゃった。瑠璃は本当にお嬢
様って雰囲気の子だから、狙われちゃったのかなっ
て思ったの。ごめんね。
ね、知ってる?2人でいる方が痴漢される確率はず
っと低いんだって。
だから大丈夫だよ、一緒にいこ!ね!」

再びホームに降りようとする奈菜に、瑠璃はイヤイ
ヤながらも着いて行くしかなくなってしまった。

ここで乗るのを断ったら、奈菜に変な事を言いふら
されそうで怖くなったのだ。
学園内で、瑠璃は痴漢された、なんて噂を立てられ
たら、もう行けなくなってしまう。
おしゃべりな奈菜の事だから、その可能性は十分に
あった。


嫌だけど、乗らなきゃ・・・
それに、奈菜と二人でおしゃべりでもしていたら、
もし痴漢が乗っていても、本当に躊躇するかも・・


奈菜の言った言葉を信じるしかなかった。
彼女は瑠璃の手を握ったまま、器用に人ごみをかき
分けて進んでいく。
どうやら端の車両に乗るつもりらしい。
どこも混んでいるから一緒だと瑠璃は思ったが、彼
女に従った。
とにかく一緒に居ないと、その思いで一杯だった。

ようやくたどり着くと同時にホームに電車がはいっ
てきた。
想像した通りに、人の波に押されながら、車両に押
し込まれていく。

しかし車両の入り口で、ふいに右手を握っていた奈
菜の手の感触が無くなった。

「え? 奈菜!」
思わず声を出してしまい、周りの視線が少し恥ずか
しかったが、奈菜の姿を探しても、車両に押し込ま
れてしまったのか、見つけられなかった。
ただどこからか、瑠璃、と読んだ声は確かに聞こえ
た。

瑠璃は焦ったが、1人になったまま車両に押し込ま
れ、自分の意思とは全然違う場所、車両の最後尾の
角に押し込まれるように移動してしまった。
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