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小鳥遊医局長の憂鬱
第10章 Honeymoon
「僕は不愉快です。」
こんな事を言われるのなら,あの男が不自然にやって来た時点で、距離を置けば良かった。ホテルまでの小道は、左右にトロピカルな草花や木々が植わっていて涼しい木陰を作っていた。

「あら…ガクさんは若い女性に見初められたのよ?嬉しくないの?」

冬が小鳥遊の温かい腰に腕を回した。

「あの男性だってトーコさんをいやらしい目で見ていたじゃないですか。」

「だったらもうベランダでエッチするのは止めましょうね。」

「ソレとこれとは話が違いますよ。」

…どーちがうんだ?

「だって、してなかったら声なんて掛けられなかった筈でしょう?」

冬はまた笑った。

「やっぱり類は友を呼ぶ…なのよねぇ。不思議だけど…でもなんで私達ってわかっちゃったのかしらね?」

冬は呑気に鼻歌を歌いながら、小鳥遊と歩いた。いつもは大股で歩く小鳥遊は、冬に合わせてゆっくり歩いている。

「お言葉を返す様ですが、あなたも漏れ無くその中の一人ですよ?」

「確かに,私が席を離れている時に、パートナーのガクさんにこっそり話す…なんて紳士度も、ガクさんと似てるのかも知れないわね。」

冬は小鳥遊の顔を眩しそうに見上げて微笑んだ。

「あなたは、人の話を聞いてませんね?」

小鳥遊は、一気に憂鬱な気分になっていたが、冬のこの様な所も実は、一緒に居て楽だった。自分が思い悩んだ時や辛い時には、そんな大したことは無いわよと,鈍感なフリをして見せる。

「でも…それでも私のコト,大好きなんでしょう?」

小鳥遊は大きなため息を吐いた。

「ええ。腹立たしい程に。」

冬の腰を引き寄せて、木陰で長く甘いキスをすると椰子の葉が頭上でカサカサと音を立てて居た。



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