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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第10章 「第2の犠牲者」
「まだ見つかっていないようですが、きっと大丈夫です。山岸蘭さんの時より多くの捜索隊が捜してくれていますから…」
凛は山岸蘭の発見現場を見ていなかったが、人伝にその様子を…蘭が観衆に受けた辱めを耳にしていたに違いなかった
つまり、捜索隊に発見されたその時は晴海もまた辱めを受ける時…
10年前に喋る事が出来なくなってから籠りがちになり、行動を共にすることも無くなった…
とはいえ、幼少期には共に過ごす事も多かった幼馴染…
凛の胸の痛みを想うと、珍田一はそれ以外に掛けるべき言葉が思いつかなかった
「凛さん…こんな時に報告するのもどうかと思いましたが…」
凛は不安そうに珍田一の表情を伺うばかりである
「昨夜、女将さん…お母さんに凛さんを東京に連れて帰りたいと伝えました」
「!」
凛は驚いて目を見開いた
「すみません…僕は凛さんの気持ちも考えずに、勝手な事を言いました…」
凛は左手で口元を覆い、珍田一の手を握っていた凛の右手は指先の力が抜け始めていた
「凛さん…事件が解決したら、僕についてきてくれませんか…?」
凛の大きな瞳は見る見るうちに潤い、決壊した涙はキラキラと朝日を反射しながら頬を流れ落ちていった
珍田一は慌てて懐から手拭いを取り出し、凛の頬にあてがった
「すみません…すみません凛さん…勝手な事ばかり言ってすみません…」
凛の肩を恐る恐る抱き寄せ、ただ謝るばかりの珍田一
天下の迷探偵も凛の前では、ただの気弱な冴えない男だった…
凛は珍田一から受け取った手拭いを目元に当てて、下を向いたまま肩を震わせるばかりである