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変質者の手毬唄・珍田一耕助シリーズ
第10章 「第2の犠牲者」
朝食を食べ終えた珍田一はくたびれた下駄を履いて表へ出た
自然と足は土蔵に向かっていた
珍田一はわざとカランコロンと音を立てて歩く
凛を驚かせないように配慮したのもあるが、自分が近くに来た事を凛に知らせたかったからだ
下駄の音を聞いた凛が自ら土蔵から出てきてくれる事を期待していた
しかし、珍田一が土蔵に辿り着くことは無かった…百日紅の木の下に藍色の浴衣を着た凛が立っていたからだ
下駄の音のお陰で、凛の黒目勝ちの瞳は既に珍田一に向けられていた
藍色の浴衣に陶器の様な白い肌が映えて、珍田一は暫し見とれてしまった
「凛さん、おはようございます」
珍田一は凛に微笑んだ
凛の方は表情を変えず、ゆっくりと頭を下げた
珍田一は凛の傍らに近付くと手を差し出した
凛は戸惑いを見せながらも、ゆっくりと珍田一の手に白く細い指を絡ませた
2人は朝の木立の中をゆっくり歩いた
湿気を帯びて香り立つ草の匂いが2人の鼻腔をくすぐる
潜っても潜っても、次々に現れる木漏れ日は絹で出来たベールのように柔らかかった
「近藤晴海さんが行方不明になりました…」
凛の足がピタリと歩みを止め、珍田一の瞳の奥を覗き込んだ
薄い唇を僅かに開けて大きな漆黒の瞳を見開いている
握っていた凛の指に力が入る