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ばななみるく
第3章 ありすのばなな
「ぐうう~っ、ぐうわぁ、うおお~」
余程の痛みなのだろう。倒れた痴漢オヤジは股間を押さえてのたうち回って苦しんでいる。顔面は蒼白だ。

痴漢オヤジが倒れると同時に電車は次の駅に着いて、ドアが開くと同時に婦人警官が乗り込んできた。
乗客の誰かが異変に気づいて乗務員に伝え、警察に通報されたのだろう。

「あ~、派手にやられたわね~。自業自得ってヤツね。立てる?立てなくても立ってもらうからね。厳しい取り調べが待ってるからね」

婦人警官は無理矢理痴漢オヤジを立たせて、もう一人の男子警官に連行させる。
呻きながら前屈みになり、引きずられるように連行される痴漢オヤジは何とも無様な姿である。

「ツラかったね。もう大丈夫よ」
婦人警官は被害者である亜莉栖を優しく抱き締める。

「あ、あの・・今日は大事な試合があって、行かなくちゃ・・」
涙ぐみながら震える声で亜莉栖は懸命に急いでいることを伝える。

婦人警官に抱き締められた時に股間がお腹のあたりに触れたような触れないような・・おちんちんのことがバレちゃったかと心配する。

「分かったわ。では後で被害状況を確認させてね」
婦人警官が優しく頭を撫でてくれる。よかった、おちんちんのことがバレた様子はない。

「スゴく強いと思ったらアンタか」
婦人警官が衣月に話しかける。衣月のことを知っているようだ。

婦人警官が見せた警察手帳には紫寧聖愛(さいねいまりあ)と書かれている。
紫寧なんて珍しい名前はそうあるものではない。衣月はひとつ前の剣道の試合で戦った強敵がそんな名前だったと思い出した。
昨年も全国大会で優勝して、今年も間違いないと注目されていた人物だ。

「維緒奈(いおな)はアンタに負けてすっごく悔しがってたわ。でも、いい戦いができたって喜んでいたわ。よかったら維緒奈とまた遊んであげて」と聖愛はウィンクをする。

そうか、この婦人警官はあの強敵の姉さんなんだと衣月は思った。

「ありがとう」と聖愛はとびきりの笑顔を浮かべる。

「いや、べつに・・」と衣月は顔を紅らめる。
だいぶ歳上の人なのに、聖愛の笑顔はとても可愛い。

この時は「ありがとう」の本当の意味が分からなかくて、痴漢オヤジを捕まえてくれたことへのお礼の言葉だと思っていた。



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