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不知夜月(いざよいづき)の夜に――
第1章 新月
君が好きだった作家の
待ちに待った新作が
今日発売になった事を思い出した途端
身体が本屋に向かっていたのだ


僕はまだ
君を忘れられないでいる…


音を発てて足元を叩く雨を避けるように
街路樹に身を寄せながら
小走りに走った



ますます酷くなってきた
少しだけ待ってみようか
そのうちに小降りになるだろう


早々にシャッターを下ろした
古い時計屋の軒先に雨宿りをした


まだ止みそうもない空を眺めると
晴れた日に見た星空が脳裏を過る


そう言えば"今夜は新月だったな……"
ふと思い出して 再度見上げた空は
やはり濃い灰


『新月は何かを始めるのには最適なのよ
あなたも紙に願いを書いてみて』


新月の前の晩になると
毎回 楽しそうに同じ事を教えてくれた君
次の新月にも また
隣にいるんだと疑わなかった

なのに…君は突然
半月前に僕の元を去った…


――君とずっと一緒にいる――


あの新月の晩にそう願えば
何かが変わってたのかな…


柄にもなくそんなセンチな事を考えていた


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