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あなたが教えてくれたこと
第6章 6
夫が出張から戻ってくる夜は、これまで感じたことがないくらいに緊張した。
何度も鏡を見ては、何事もなかった表情を作る練習をする。
普段から厳しく容赦のない正嗣に不貞の事実を知られたらと想像すると震えが止まらなかった。

「お帰りなさい」

夜中の十一時を過ぎてから帰ってきた夫はさすがに疲れた顔をしていた。

「ご飯になされますか?」
「いや。済ませた」

捨てるように渡してくる鞄と上着を受け取り、正嗣の背を追う。
不機嫌そうに見えるがそれはいつものことなのでむしろ安心した。

ヨーロッパ出張の話など夫婦間でされるはずもなく、彼は風呂場へと直行していった。
散らかすように脱いだ衣服を纏めて洗濯機に入れ、着替えを用意する。
湯をかける音や洗面器が鳴らす音などを聞きながら、まだ緊張は解れていなかった。

一声かけて去ろうとした時、ガラス戸の向こうから声を掛けられた。

「留守中変わったことはなかったか?」

何気ない一言に、心臓を掴まれた恐怖が生まれる。
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