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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 My Fair Lady
梨央が飲み終わった薬の後片付けと、就寝前のミルクとビスケットの準備を手伝いにますみの後を続く。
赤い絨毯が敷き詰められた廊下を歩きながらますみは首を振る。
「梨央様があんなに素直にお薬をお飲みになるなんて…一体どんな手を使ったの?」
「…いえ…特には…」
月城は先ほどの出来事を思い出し、小さく微笑む。


「梨央様…ではいいですか?月城と競争ですよ?月城はこのお薬は初めてですので、上手く飲めるか心配なのですが…」
わざと不安な顔をしてみせる。
梨央は可笑しそうにくすくす笑う。
「いいわ!絶対私が勝つわ!」
「…仮にも私は18ですから、6歳の梨央様に負ける訳には…よ〜いドン‼︎」
「あ!ずるい!」
梨央は小瓶の飲み薬を小さな手でしっかり握りしめ、一気に飲み干した。
「飲んだわ!私の勝ちね、月城!」
興奮した声を上げる。
月城は顔を顰め、自分の飲み残しの薬の小瓶を悔しげに見つめる。
「…ああ…残念です…余りに苦くて飲みきれませんでした。梨央様はすごいですね。こんなに苦いお薬を飲んでおしまいになるなんて…」
梨央は嬉しそうに笑い、月城を見つめた。
…可愛いな…。
梨央様…。
月城の胸はさっきからときめきっぱなしだ。


ますみはミルクとビスケットの準備をしながらしみじみと話し出す。
「…梨央様は一昨年前にお母様を病で亡くされ…ただでもお身体がお弱いのにすっかり塞ぎこんでしまわれて…最近ようやく少しずつお元気になられたのですよ」
…そういえば、ホールに美しい貴婦人のお写真があったな。
あの方が梨央様のお母様か…。
月城は気高く美しい容貌だがどこか腺病質な面差しの夫人の写真を思い出した。
「旦那様は年の殆どは外国ですし、帰国なされても様々なお仕事や夜会などでお忙しくて…梨央様はいつもお寂しい思いをされているのです」
「…学校は行かれているのですか?」
ますみは首を振る。
「…お身体がお弱い上にお人見知りのご性格でね。旦那様がご心配されて、学校はお通いにならずに家庭教師に来て頂き、お屋敷の中でお勉強されています」
「…そうですか…」
…そうか…あの寂し気な表情はそういうことなのか…。
学校に通わず、外の世界と交わらず、この外国の城のような豪奢な屋敷で沢山の使用人に傅かれ、大切に育てられている深窓の花…それが梨央様…。
その方のお世話ができる…。
月城の胸は甘く疼いた。

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