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Vesica Pisces
第4章 太陽は静寂を開く
目と鼻の先にあったガード下でカウンターが空いてたというだけでその店に入る。

L字の角の二席しか空いてなかったけれど丁度良い。

頑固オヤジとにこにこしてるおかみさんでやってる店らしく、出汁の良い香りが鼻をくすぐった。

「俺、だし巻き卵と厚揚げと…おでんは大根と卵とすじね、あとビール」

伽耶を見るとスマホのメモ機能におでんの卵としらたき、きんぴらとウーロンハイと打っていた。

それらも注文して、ビールとウーロンハイでとりあえず乾杯した。

「会社この辺?」

『はい』

メモ越しの会話は微妙なタイムロスでうまく続かない。

きんぴらとおでんが出てくると無言でそれを口にした。

「んんっ!!」

満面の笑顔とともにでた感嘆詞の音に驚いた。

表情がおでんの美味しさを如実に語っていて、おかみさんも驚いていたがその表情にすぐ笑顔になった。

『美味しいっ!』

初めて伽耶から話してくれたそれに、透は思わず笑った。

「なんだよ、喋れんじゃん」

『え?』

「それ、隠してただろ?」

喉元まで上がった手を指すと、伽耶は罰が悪そうにゆっくりと下ろしていく。

「何で隠すんだよ、話せねーじゃん」

『煩わしいと思って』

予想だにしなかった答えだった。
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