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禁煙チュウ
第15章 ハッピー・エンド(?)
「『俺はお前が全て正しいと思うことをやめる、って言われちゃったのよ』、って……」
腕の中で石井が身じろぎする。俺を見上げて
「『哲には言えないと思ってた。「さよなら」なんて』って……それで、雪乃さんは『じゃーね』って……そのまま帰っちゃいました」
「……そうか」
それは俺が雪乃に残したメッセージそのままで。

「どういう、意味ですか?」
石井が見上げてくる。
……うう。やっぱ聞く?

「あー、うん……意味……もなにもそのままなんだけどさ」
手を引いて道の端に寄る。車が通り過ぎて冷たい風が吹く。

「なんつーかやっぱ、惚れた弱みというか……俺の中で雪乃は俺より強くてさ。雪乃の全部が最高で最強で正しい、唯一のものだったんだよ」
石井の眉根にきゅっとしわが寄る。
「……もちろん、今は違うけど」
石井の眉間に指を這わす。
ぱちぱちとまばたきする石井の睫毛が手に当たってくすぐったい。

「神格化してたっていうか、雪乃のする事言う事全部が俺の中で正しかった。……わかる?」
「……なんとなく」
「それで、俺はそれをやめる、ってこと。盲目的に好きだと思う事をやめる……ってことかな。自分でも変なこと言ってる気がするけど」
「わかる、気がします」
複雑そうな石井の表情がネオンに照らされて赤く光る。

「戻ろうか」
石井の小さな手を引いて来た道を戻る。ビルの近くまで来ると、ぐっと石井が手に力を込めて立ち止まった。
「ん?」
振り向くと石井が
「じゃあ、わたしのことはどうですか?」
と目を伏せたまま問いかける。
「わたしは正しいですか?」
俺はふっと思わず笑ってしまった。可愛いヤキモチだと思った。その時は。
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