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恋はいつでも平行線【完結】
第19章 *十九*
水?
「神田家の先祖が、水一滴のおかげで命拾いをしたというのは本当です。そして、その人は、私たちのためにお酒を造り、捧げてくれました」
「…………」
「それはどれくらい続いたのか覚えていませんが、気がついたら、私たちは形を得ることができて、人の姿になっていたのです」
そう言って、雪さんはわたしの目の前に右手を差し出し、そして……。
「────っ!」
目の前の光景に、思わず息をのんだ。
さっきまで雪さんの腕があったところには、膜の中に水が入った、腕の形をしたなにかが浮かんでいた。まるで水中から外を見ているかのように、ゆらゆらと向こう側の風景が揺れて見えた。
何度か瞬きをしたけれど、透明の腕の形をした水が、やはり宙に浮いていた。
信じられなくて、目で追って行くと、徐々に色がついてきて、雪さんの肘が見えた。
「よく、古い器物に魂が宿って付喪神となりますけれど、私たちも神田家の人たちの蜜を口にしているうちに妖力を持ち、こうして実体化することができるようになったのです」
なんというか、呪いの骨董も荒唐無稽だけど、もっとすごいものが目の前にあったようだ。
「奥さまも春菜さまのことも気に入っているのですが、柚希さまは別格ですね」
そういって雪さんはちゃぷんと音を立てて右手をわたしの頬に当て、顔を寄せて頬ずりをしながら、水の腕で反対の頬を撫でてきた。
雪さんの頬は温かいのに、水の腕はひんやりとして気持ちがいい。
「これは、私たちと柚希さまとの間の、秘密、ですよ?」
秘密と言われても、こんなこと言ったってだれも信じてもらえない。
だから言うつもりはない。
それに、別に雪さんのことは嫌いではない。ちょっとセクハラ気味なのがいただけないけど、それさえなければ、大好きだったりする。
「そうだ。柚希さまのことが心配だから、私たち、お側にいますね」
え、なに、それ、どういうことっ?
と思う間もなく、雪さんがゆらりと揺れたかと思ったら、二重に見えた。
おかしいと慌てて目を擦ったら、やっぱり雪さんがぼやけて……というより、雪さんの後ろに陽炎のような、ゆらゆらと揺れる水の塊があった。
それはまるで、雪さんが二人になったようで……。
悲鳴は上げなかったけれど、さすがについていけなくて、脳みそがフリーズした。
「神田家の先祖が、水一滴のおかげで命拾いをしたというのは本当です。そして、その人は、私たちのためにお酒を造り、捧げてくれました」
「…………」
「それはどれくらい続いたのか覚えていませんが、気がついたら、私たちは形を得ることができて、人の姿になっていたのです」
そう言って、雪さんはわたしの目の前に右手を差し出し、そして……。
「────っ!」
目の前の光景に、思わず息をのんだ。
さっきまで雪さんの腕があったところには、膜の中に水が入った、腕の形をしたなにかが浮かんでいた。まるで水中から外を見ているかのように、ゆらゆらと向こう側の風景が揺れて見えた。
何度か瞬きをしたけれど、透明の腕の形をした水が、やはり宙に浮いていた。
信じられなくて、目で追って行くと、徐々に色がついてきて、雪さんの肘が見えた。
「よく、古い器物に魂が宿って付喪神となりますけれど、私たちも神田家の人たちの蜜を口にしているうちに妖力を持ち、こうして実体化することができるようになったのです」
なんというか、呪いの骨董も荒唐無稽だけど、もっとすごいものが目の前にあったようだ。
「奥さまも春菜さまのことも気に入っているのですが、柚希さまは別格ですね」
そういって雪さんはちゃぷんと音を立てて右手をわたしの頬に当て、顔を寄せて頬ずりをしながら、水の腕で反対の頬を撫でてきた。
雪さんの頬は温かいのに、水の腕はひんやりとして気持ちがいい。
「これは、私たちと柚希さまとの間の、秘密、ですよ?」
秘密と言われても、こんなこと言ったってだれも信じてもらえない。
だから言うつもりはない。
それに、別に雪さんのことは嫌いではない。ちょっとセクハラ気味なのがいただけないけど、それさえなければ、大好きだったりする。
「そうだ。柚希さまのことが心配だから、私たち、お側にいますね」
え、なに、それ、どういうことっ?
と思う間もなく、雪さんがゆらりと揺れたかと思ったら、二重に見えた。
おかしいと慌てて目を擦ったら、やっぱり雪さんがぼやけて……というより、雪さんの後ろに陽炎のような、ゆらゆらと揺れる水の塊があった。
それはまるで、雪さんが二人になったようで……。
悲鳴は上げなかったけれど、さすがについていけなくて、脳みそがフリーズした。