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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
「おい、しの」
「はい」

 佐久間先生が正面から話しかけてくる。
 熊のように体格がいい、強面の数学教師。黙って立っているだけで、ヤクザのお偉いさんか組織犯罪対策部の刑事さんのような威圧感がある。
 顔も性格も怖いが、生徒からの信頼は厚い。教師からの信頼はそれ以上に厚い。あと少しで定年だとは思えないくらい、若々しい。

 ちなみに、名前と体型から、生徒たちからはクマ先生と呼ばれている。プーさんではなく、見かけは完全にプーチン大統領だ。

「今日のホームルームから、里見にやってもらうけど、異論は?」
「ありません。重要事項は補足します」
「俺は補習と部活があるから、その間の指導案の補助はお前がやれよ」
「わかりました。その代わり、必ず確認してくださいね」
「お、おう。忘れはしねえよ……たぶん」

 歳のせいか、忘れっぽくなってしまった佐久間先生。補助するのも副担の仕事だとはいえ、大事な通達まで忘れてしまうので、確認は必須だ。

「よろしくお願いします」

 ようやく目が合う。薄らと笑みを浮かべた里見くんに、胸がざわざわする。
 言いようのない不安は、実習生を紹介する全校集会が終わったあとのショートホームルームで、的中した。
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