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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第10章 しのちゃんの受難(六)

 シャワーを浴びて、ご飯を食べに出かける。近くのファミリーレストランは土曜日とはいえ生徒たちがいるかもしれないので、行くことはできない。
 宗介たっての希望でどら猫亭へ行ってみたけれど、生憎の満席。奥様の「また来てくださいね」に宗介は悔しがる。
 生徒たちが絶対に来られない居酒屋は、さすがに土曜の夜とあってなかなか空席がない。

 仕方なく、行きつけのラーメン屋さんに入る。

「……ごめんね、宗介の誕生日なのに」
「いいですよ。小夜と一緒にいられるなら」

 宗介の笑顔に裏はない。ラーメン屋でも、イタリアンでも、宗介はきっと喜ぶだろう。私がそばにいるだけで、彼は笑顔になる。痛いほど実感している。

「味噌ラーメン美味しそう」
「じゃあ、そっちの塩も一口ちょうだい」

 厚切りチャーシューを満面の笑みで飲み込みながら、宗介は「美味しい」と私の好きなラーメン屋を褒めてくれる。それが、とても嬉しい。
 私が「煮玉子が好き」だと言えば、煮玉子を半分分けてくれる。それも、とても嬉しい。

 幸せだな、と思う。

 礼二は猫舌で、ラーメンは好きではなかったから、いつも一人で来ていたのだ。食の好みが同じで、二人で「美味しい」と言えるのは、とても幸せなことだと思う。

「ラーメン、美味しかった」
「でしょう? 私はあそこの塩ラーメンが一番好きなの」
「餃子も良かった。美味しかった」
「そう。餃子だけじゃなくて、チャーハンも唐揚げも美味しいの。だから、すぐ食べすぎちゃう」

 帰り道。
 宗介は優しい視線で私を見下ろして、笑う。

「また一緒に行きたい」
「ええ、また」
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