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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第1章 しのちゃんの受難(一)
 潮時だな、と思った。

 洗面台の棚に置いてある私の基礎化粧品が奥に追いやられ、その手前に、若い子が使う安い基礎化粧品が並んでいる。トラベル用の化粧品が奥に置いてあったときは、まだ許せると思ったけれど、これはない。

 普通サイズの基礎化粧品の減り具合は、頻繁にこの部屋に出入りしていることを意味し、私の化粧品を奥に追いやることで、私に挑戦状を叩きつけている。

 煽っているのだ。彼はもうあなたとは頻繁に会わないんでしょう? だったら、私にその座を明け渡してちょうだい、と。

 潮時だ。

「礼二」

 化粧品を回収して、まだ風呂の中で鼻歌を歌っている彼に声をかける。
 確かに、ここに来るのは二ヶ月ぶりだ。仕事の関係上、年度末と年度始めはいつも忙しい。だから、頻繁に会うことはできない。
 今日はたまたま早く模試が終わったから、久しぶりに礼二の部屋に来て夕飯を作って、先にお風呂を借りたのに。

「なに、小夜」

 彼はまだバレていないと思っているのだろう。ずっとちょろい女だと思われていたんだろう。
 ずっと前から、浮気を許していたけれど、それが発覚したときに礼二を咎めなかったのだから、そのときからもう愛と呼べるものも、なくなってしまったのだろう。

「別れようか」

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