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君がため(教師と教育実習生)《長編》
第11章 【回想】里見くんの決断

「こんにちはぁ!」

 だから、空耳かと思った。
 あまりに妄想しすぎて、俺の頭がおかしくなったのかと思った。

「今日ね、名古屋で研修だったの。はい、おばちゃん、お土産!」
「あら、小夜ちゃん、いつもありがとう。小倉トーストラングドシャ?」
「コーヒーに合うかな? あ、ブレンド一杯。それ飲んだら学園に戻らなきゃ」

 カウンターに座ったのは、紛れもなく小夜先生。
 その姿を見た瞬間に、俺の心臓がばくばくと音を立て始める。三人に聞こえてしまうかもしれないと思えるくらい、その音はうるさい。
 やだな。
 まだ、諦めきれないんだ。
 いや、諦めてなんか、いないんだ。
 体が、こんなに熱く、小夜先生を欲している。怖いくらいに、求めている。

 思い知る。
 俺は、小夜先生が、好きで好きでたまらない。
 二年離れてもなお、愛しい。

 少し、髪が伸びた。少し、痩せた。パンツスーツとは珍しい。
 あぁ、相変わらずかわいい。
 小夜先生はスーツケースを置いて、カウンター越しにマスターや奥さんと話している。カウンターの椅子が高すぎるのか、足をぷらぷらさせながら。

「名古屋は喫茶店が多くて、どこに入ろうか悩んじゃった。でも、やっぱりここのブレンドが一番好きだなぁ」
「うふふ。小夜ちゃんたら、うまいんだから」

 敬語ではなく、砕けた話し方の小夜先生を、初めて見たかもしれない。
 俺は、見つからないように大人しくしている。小夜先生に見つかったら、ストーカーかと思われてしまう。いや、結構ストーカーまがいのことをしている自覚はあるけれど。
 心の準備というものが。
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