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Oshizuki Building Side Story
第2章 Shooting the moon
 

「指だけで、あんなになるもんなんだ……」

 思わずぼやいてしまうと、結城が言った。


「お前の中、かなり狭くてほぐしたから。ああやって少しずつほぐしていけば、俺が入っても大丈夫だろう。痛くねぇようにするから」

 ……本当にムードの欠片もない男だ。

「最後までするの、それ決定事項なの?」

「勿論。ちゃんと恋人になったら、最後までしよう。それまで俺、待つから。だからお前の初めて、俺に頂戴?」


 私を求める、切なそうな結城の顔。


――ふたりとも前を見てもいいんだよ。きっとそれは会長の願いでもある。

 一瞬、陽菜の顔が横切った。

――あたしのために結城は、自分の幸せを見つけようとしてこなかったから。その結城が動こうとするのなら、あたしは喜んで応援するよ。


「ん……。考えておく」


――結城はモテるけど、誰彼構わず寝るような男じゃないよ? 


 返事をしたら、頭を撫でられた。


「すっげー楽しみ」

「考えておくだけだよ。恋人にならなかったら、却下ね」

「その可能性捨てろよ、俺と始めようって」

「さあ、どうしようかな」

「真下!」

 結城は、あたしの顔を上げさせ、微笑みながら言う。

「ちゃんと、心も体も満足させてやるから。酔ってない素面の時に、俺がいいって言わせてみせるから。……って、照れるなよ、俺まで照れるじゃねぇか……」


 いつか、結城に抱かれる日がくるのかな。

 ……だけど結城になら、抱かれてもいいと思うんだ。

 私の初めてをちゃんと考えてくれた、結城なら……。


 ……とは、言ってやらないけど。



「誕生日、おめでとう」


 結城は笑う。
 

「――衣里」

「……呼び捨てはやめてよ、睦月!」


 私達は笑い合った。


――……もっと思い出せよ、昨日のこと。


 思い出してみたい。

 結城がなにを言ってなにをしたのか。


 それは、今からわかる?


 なにかが変わった、私の誕生日。

 なにかが始まる、新しい年――。



 

 Shooting the moon【完】
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