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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か
九月十八日は、一日、兼吉渡しの近くで海を眺めながらぼうっと過ごす。
叡心先生が亡くなった日。亡くなった場所。そして、水森貴一も亡くなった日。
今年は二人の冥福を祈りながら、海を眺める。
今朝、健吾くんには何も言わずに出てきてしまった。慌てているかもしれない。でも、朝セックスをしたら、確実に新幹線の乗車時間には間に合わなかった。仕方なかったのだ。
翔吾くんと湯川先生の関係は良好、のように見える。お互いが譲り合って、お互いを気にして、私と会っている。
それを「苦しい、つらい」と二人は言わない。思っているのかもしれないけれど、表情にすら出さない。均衡が崩れてしまうことを恐れているように見える。
心苦しいと思うべきか、ありがたいと思うべきか、私にはまだ判断できない。
健吾くんも、ケントくんも、マイペースだ。「会いたい」と言えばたいてい会ってセックスをしてくれるし、同じように「会いたい」と言ってくれるからありがたい。そして、翔吾くん・湯川先生をまずは優先してくれるのも、ありがたいと思う。たまにケントくんは我が儘を言うけれど、想定の範囲内のことだ。
現段階では、セフレさんたちとの関係も良好、のように思える。
荒木さんは、いつも通り。
資料作成は頼まれるし、その資料で契約も取ってきてくれる。廊下で会えば挨拶はしてくれるし、エレベーターで乗り合わせて二人きりになっても襲っては来ない。
告白される前と同じ状況だ。
いや、佐々木先輩がいなくなってバタバタしているところを、結構助けてくれているから、まったく同じというわけではない。
けれど、たぶん諦めてくれた、と思う。もちろん、油断は禁物だけれど。
水森さんとはあれから会っていない。それでいい、と思う。今のところ、会う理由がないし、会ったとしても喧嘩腰になってしまう。
知られすぎているということは、居心地がいいのかもしれないけれど、それに甘えることができるのは……相手によるのだ。水森さんにはあまり甘えたくはない。