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蝶が舞う時
第3章 条件
テーブルにセットしたグラスにお冷やを注いでいると

「あのぅ…ドライヤーありますか?」

「ドライヤーはそこの洗面化粧台の2番目の棚にあるから。」

「はい…」



暫くして菜摘がトレーナー姿で出てきた。

「じぁ、食べようか?」

テーブルに菜摘を呼ぶ。

「今日はおじさんの数少ないレパートリーのカレー。味は保障するよ。」

「おじさんが作ったのですか?」

「そう! 但しサラダのキャベツの千切りは太切りだけど勘弁してね。」

菜摘はそのサラダのキャベツを見つめ、軽く笑った。

「菜摘ちゃんが笑ったのを初めて見た!」

それから無難な話題で話をしながらカレーを食べ続けた。

食べ終わってから片付けようとした時

「おじさん…私が片付けます。」

「いいよ!菜摘ちゃんはお客さんだから」

「おじさん! 私にさせて下さい。」

「じぁ、お願いしょうか… 洗剤は流し台の横にあるから…」

「はい… おじさんはお風呂に入って下さい。」

「そうするか…」



俺は暫く浴槽に浸り、今後の菜摘の対応を考えていた。

(明日の朝、朝食を食べさせてから駅まで送ろう。)


風呂から出ると菜摘は既に片付けを終わらせて、リビングのベランダから外を眺めていた。

「片付けありがとう。」

「い、いいえ」

「ちょっとここに来て。」

「はい…」

リビングにあるソファーに座ると菜摘はその横に座った。

俺はテーブルの上に2万円を置き

「今日は一日菜摘ちゃんとデートして楽しかった。これはそのお礼。」

菜摘はびっくりした様子でそのお金を見つめた。

「但し、このお金でとりあえず家に帰りなさい。明日、朝御飯を食べたらおじさんが駅まで送るから。」

暫くの沈黙が続き

「帰る所がありません…」

「帰る家はあると思うけど…」

「家はあっても…私の居場所は無いんです…」

「お母さんが3年前に癌でいなくなり、去年お父さんは私より2歳下の子供を持つ女の人と再婚して…」

「お父さんとの話し合いは?」

「我慢してくれと…  今の家に私の居場所は無いんです…」

菜摘は大粒の涙を流し始めた。

(気持ちは理解できる。ただ、俺には術が無い…)

「おじさん…私をここに置いてくれませんか?」

泣きながら小さな声で…

「はぁ?…」

「何でもします…ここに置いてくれませんか?」
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