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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「あたしなら……車で走り抜ける。裕貴くんの危機に、これ以上はもたもたしていられないから」

 そして後ろを振り向くと、須王は満足そうに笑った。

「三芳の意見は?」

「勿論、柚に一票!」

「はは。俺もだ。だったらここは、柚の案で行こうじゃねぇか」

「え……いいの? 結構、無謀だと思うけど……」

「そこで逃げ腰になるな。お前だって信頼に足る〝仲間〟だろ?」

「そうそう。運転がド下手であってもね」

 ……やばい。
 涙が出そうだ。

「そうと決定したら。行くわよ……」

「その前に、柚。肘を置いているコンソールボックスの包みをくれ」

 あたしは了解して蓋を開けると、中にあった紙袋を須王に渡す。なにか、ずっしりとしたものが入っている。

「これ、なに?」

 すると須王が紙袋からそれを取り出しながら、こともなげに言う。

「ああ、棗のデザートイーグル」

 ……銀色の銃だった。

「なななな……」

 さすがの女帝も、バックミラー越しに驚きを隠せないようだ。

「そ、そんなもの、こんなところに普通に入れておかないでよ!」

「俺に言うな。棗のだって」

 そう言うと、須王は慣れた手つきで、スライドロックとよばれる銃の上の方を前後に動かし、シャキンと音をさせた。
 
「カ、カラスをそれで撃ち抜くの!?」

「そんなの銃弾が勿体ねぇよ。マシンガンじゃねぇんだから」

「じゃあなんで……」

 しかし須王はあたしの疑問には答えず、女帝に言った。

「三芳。五秒後、アクセル全開でいけ」

「わ、わかったわ」

「5、4……」

 その銃はお守りね。
 きっともしもの時のための、護身用ね。

 きっとそう。
 いくら須王でもこんなところで無闇に発砲なんてしないし!

 落ち着け、柚。
 大丈夫、大丈夫……。

 慌てるあたしの耳に、最後の数字が聞こえた。

「0。スタート!!」

 須王の合図と共に、車が走り出し……そしてなぜか須王は、後部座席の窓を開けたのだ。

「なぜに!!!!!!」

 カラスが、中に入ってくるじゃないの!!
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